どっどど どどどど どどどど どどう、
 青いくるみも吹きとばせ
 すっぱいかりんもふきとばせ
 どっどど どどうど どどうど どどう


    宮沢賢治「風の又三郎」より
安比高原の「オニグルミ」「ガンジュアザミ」
作品ID462

「嘉助、二人して水掃ぐべな。」と言ってしゅろぼうきをもって来て水を窓の下のあなへはき寄せていました。
 するともうだれか来たのかというように奥から先生が出てきましたが、ふしぎなことは先生があたりまえの単衣ひとえをきて赤いうちわをもっているのです。
「たいへん早いですね。あなたがた二人ふたりで教室の掃除そうじをしているのですか。」先生がききました。
「先生お早うございます。」一郎が言いました。
「先生お早うございます。」と嘉助も言いましたが、すぐ、
「先生、又三郎きょう来るのすか。」とききました。
 先生はちょっと考えて、
「又三郎って高田さんですか。ええ、高田さんはきのうおとうさんといっしょにもうほかへ行きました。日曜なのでみなさんにご挨拶あいさつするひまがなかったのです。」
「先生飛んで行ったのですか。」嘉助がききました。
「いいえ、おとうさんが会社から電報で呼ばれたのです。おとうさんはもいちどちょっとこっちへ戻られるそうですが、高田さんはやっぱり向こうの学校にはいるのだそうです。向こうにはおかあさんもおられるのですから。」
して会社で呼ばったべす。」と一郎がききました。
「ここのモリブデンの鉱脈は当分手をつけないことになったためなそうです。」
「そうだないな。やっぱりあいづは風の又三郎だったな。」嘉助が高く叫びました。
 宿直室のほうで何かごとごと鳴る音がしました。先生は赤いうちわをもって急いでそっちへ行きました。
 二人はしばらくだまったまま、相手がほんとうにどう思っているか探るように顔を見合わせたまま立ちました。
 風はまだやまず、窓ガラスは雨つぶのために曇りながら、またがたがた鳴りました。


引用:青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/
 嘉助はもう早く、一郎たちの所へ戻ろうとして急いで引っ返しました。けれどもどうも、
それは前に来た所とは違っていたようでした。第一、薊があんまり沢山ありましたし、それ
に草の底にさっき無かった岩かけが、度々ころがっていました。そしてとうとう聞いたこと
もない大きな谷が、いきなり眼の前に現われました。
                   宮沢賢治「風の又三郎」より


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